断片



 もうずっと、子供の頃の話だ。組織に連れ去られて、少しずつ磨耗していったあの頃。
 夜。独房のような部屋。その部屋は冷たいコンクリート作りで、二人は毛布に包まっていて震えていた。凍ってしまいそうなほど寒かった。春は遠い季節だった。
 私は仕事に慣れていなかった。その日も、罰を受けたばかりだった。

「俺たちさ、兄妹になろうよ」
 突然、イチシはそう言った。

「なるって、言って、なれるものなの?」
「俺たち二人でそう信じれば、完璧に兄妹だよ!」
「でも、なっても……」
 なったところでこの日々から抜け出すことはできない。

「そうしたら、俺は安心するんだ」
「どうして」
「何があったって、俺は、ひとりぼっちじゃないって言える気がする」

「なってくれる?」
 イチシは悪戯っぽく笑った。

 そのとき、胸で炎が燃えていた。この炎は、イチシがくれたものだ。私にくれた役目だった。寄る辺だった。ここにいてもいい証だった。私が私であるために、必要な灯火だった。
 ああ、今、胸に歓喜の炎が宿っている。かけがえのないプレゼントをもらったような。遠い昔に感じたことのある、あの炎の熱。

「なる。イチシの妹に、なるよ」