『よくある話』

「ただいまー」
「おかえり、セドリック!」
「5分ぶりの帰宅だ」
「追い出して悪かったわよ」
「なんでビデオカメラなんか回してんだ」
「いいでしょ。ほらお部屋に入ってよ!」
「はいはい」

「うわっ」
「父の日おめでとー!」
「こりゃ誕生会だ。カラフルな輪っかに、ケーキか? はは! どうしたんだこれ?」
「友だちのおうちで作り方教わったの!ダフネが全部作ったのよ!」
「嘘だな」
「嘘じゃないです!ほら、ウロチョロしてないで座って!輪っかツンツンしてないで!ほら!」
「はいはい」

「改めて、父の日おめでとうございます」
「お前、俺なんか撮っても面白くねえだろ? ほら、貸せ」
「やだ!今から私がセドリックにむけて父の日の手紙読むから!そんで、号泣きしてるセドリックを記録に残すのよ!」
「泣かんわ!貸せ!」
「やだ!」
「じゃあ二人が入るようカメラを設置しよう」
「わかった」

「こんな感じだろう」
「ありがと」
「続きをどうぞ」
「読むわ!」

「“セドリックへ。驚きましたか”」
「驚いたわ」
「“驚かなかったら、こちょこちょで驚いたって言うよう脅します”」
「驚いたって言ってよかった!」
「“セドリックは正確にはお父さんじゃありません。私のお父さんは、別にいます”」

「“でも、それはささいな違いです。いま、お父さんというお仕事をしているのはセドリックです。いつも、本当にありがとう”」
「お前、顔真っ赤じゃん」
「うるさい!“いつも私をイジってきて、ウザいと1日に1回必ず思ってます”」
「傷つくなー」

「“でも、色々してくれて助かってます。改めて感謝するのはすごい恥ずかしいけど、思っていることは本当です”“それに”」

「“セドリックが私を拾わなかったら、生きてなかったと思います。見つけてくれてありがとう”」

「“これからもよろしく”」

「…………感動して、涙ポロポロじゃない?」
「ぜーんぜん」
「カッサカサじゃん!つまんないの!」
「お前の方が泣きそうに見えるな、タコより真っ赤で」
「うるさいなあ!こんな直接言うのなんて恥ずかしいに決まってんでしょ!ほら、じゃ、ケーキを食べるわよ!美味しくて、今度こそ泣いちゃうからね!」
「俺の泣き顔目当てに父の日を祝ってんだろ!全くひねくれて、だれに似たんだがね」
「一人しかいないでしょ!ほら、いただきまーす!」